「Appleの広報は2度に渡り記事の掲載を止めさせようと必死だった」
著名なジャーナリストであるBryan Appleyard氏は、AppleのCEOであるスティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)氏のネガティブな面を含む記事が紙面に掲載されないよう、Appleの広報がThe London Sunday Timesに対して、記事の掲載を2度に渡って阻止しようと試みたと伝えています。
Appleはパーソナリティに関する記事やプレスによる潜入取材を好んでいないとされるなか、Appleが阻止しようとしたSunday Timesの記事には、これまでによく知れ渡っているもののほかに、あまり知られていないジョブズ氏の人物像やバックグラウンドなどにおける、同氏の良い面(Good Steve)と悪い面(Bad Steve)が多方面に渡り描かれています。
記事には、ジョブズ氏の生い立ちやこれまでの経歴、性生活、支配力が強く生産的なナルシズムな性格や性癖、ビジネス上の失敗や成功、食生活、また、最近の健康上の問題等がさまざまなアングルから描かれており、当時のペプシコーラCEOジョン・スカリー氏の引き抜きや、スカリー氏によるAppleからのジョブズ氏追放、ジョブズ氏復帰後の大成功などにも触れられています。
スカリー氏に対する、“Do you want to spend the rest of your life selling sugared water, or do you want a chance to change the world?”(砂糖水を一生売り続けたいのか?それとも、世界を変えるチャンスをつかみたいのか?)は、あまりにも有名な口説き文句。
また、従業員による情報漏えいに対しては、想像を超える、業務に支障をきたすほどの厳しいルールが存在し、時として、漏えい元を明確にするためだけに、誤った情報を流すことさえあるとされています。
さらに、トップシークレット級のプロジェクトに関わる従業員は、複数の厳しいセキュリティを通る必要があり、デスクは常に、カメラでモニタリングされている状態だということです。
Appleの政治的ともいえる秘密主義は、最近だけでも、「iPhone」の生産委託先であるFoxconn Technologyで、プロトタイプを持ち出した従業員の飛び降り自殺や、英国で起きた「iPod touch」爆発事故の強硬な口止め事件などがあり、このような秘密主義は「マーケティング上のコアなツール」にさえなっていると指摘されています。
スティーブ・ジョブズ氏自身は、インタビューを好んでおらず、人と会話することを不快にさせることで知られており、Appleの就職面接に立ち会った際、退屈したジョブズ氏は、堅苦しい求職者に対して「童貞を失ったのはいつだ?」とか「何回LSD(幻覚剤)を服用したことがあるか?」などといった質問を始めて、求職者を追い出したことがあるとされています。ちなみに、ジョブズ氏は以前、LSDを服用したことは彼自身の人生において、もっとも重要な出来事のひとつだと述べていました。
酷使された従業員が、もし生き残れば、社内で最高の待遇を受けることができ、ジョブズ氏の不可能を可能とするような不思議な力が存在するようだと指摘されています。
ジョブズ氏は、ある種のチャリティーやカルトであるかのようなAppleの熱狂的なサポーター同様、Apple製品に多額の財産をつぎ込んでいるとされています。
ジョブズ氏は、偽スティーブ・ジョブズことダン・リヨン氏によると、エンジニアでもなければ、コンピュータ回路のことなど何もわかっていない素人だとされる一方で、一般の消費者側に立っている 究極のエンドユーザだと表現されています。
初代Macを設計する際、ジョブズ氏は、多くのエンジニアが奨めた「拡張スロット」の搭載を認めようとせず、閉鎖することで、完全に自分自身のものにしようとしたとされています。
また、最近では、ノートブックやiPhone、iPodのバッテリさえも閉じ込めてしまったとされる一方で、iPhoneでは、サードパーティ開発者にアプリ制作環境を開放して、インターネットに取って代わる環境になるとも一部で指摘されるほどの成功を収め、現在開発中とされるタブレット型Macは、このシステムがベースになるとされています。
ジョブズ氏の健康問題に関しては、2004年にすい臓がん手術を受け、今年に入り肝臓移植手術を受けたことなどに触れながら、ユーザが見ることの出来ないマシン内部の美にこだわるように、食べ物にも完全性を求めるあまり、皿に載っているのは、ドレッシング無しの生のニンジンの千切りだと揶揄されたと述べられています。
大学を中退したことで、ジョブズ氏は、人とは異なる審美眼を持つようになり、最小限主義的な選択は、誤った選択をすることへの恐怖から来るものであると「The Second Coming of Steve Jobs(スティーブ・ジョブズの再臨―世界を求めた男の失脚、挫折、そして復活)」の著者であるアラン・デウッチマン氏は述べ、ジョブズ氏の大学中退が、ジョブズ氏自身のなかで大きな意義を持っていると指摘しています。
スティーブは、20代前半にして、大きな財産を得た若者のうちのひとりに過ぎかなった。しかし、彼は、才気があり洗練されていると見なされなくなるのを恐れるあまり、その不安な気持ちとデザインの重要性への本能が結びつくことになった。
そのほかにも、仏教への信仰心、Macintoshコンピュータの伝説のコマーシャル、ジョーン・バエズやクリス・アン、モナ・シンプソン、妻ローレン・パウエルとの関係、NeXT ComputerやPixarの設立などが時系列で描かれています。
また、ジョブズ氏引退後のビジョンに触れ、初期のMac開発チームに属し、現在はGoogleに勤務しているアンディ・ハーツフェルド氏が、
Appleがワンマン会社であるなんて考えるのは滑稽だ。Appleは何百人もの有能なタレントを抱えており、リーダーが変わったとしても、問題は起きないだろう。1985年にジョブズ氏が去った後に会社が崩壊したようなことは、今回は起こらないだろう
と述べる一方で、ジョブズ氏の完全主義が無くなれば、革新的な製品を生み出すことは困難になるだろうという見方や、すべての製品の最初から最後までの工程において、口を挟むことができる権限を持つ人物は、ジョブズ氏以外に出て来ないだろうという意見もあります。
この記事の執筆者であるブライアン・アップルヤード氏は、ジョブズ氏の引退後は、Googleとの合併が論理的であると指摘し、Googleの革新性とAppleのデザイン性と市場感覚が結びつけば、Microsoftに対してさらに大きな脅威になるとしています。